『ケーキが切れない非行少年たち』という新書がベストセラーになりました。今はマンガ化もされて第5巻までが発売されています。少年院が舞台で嘱託の精神科医が少年院の子供たちの精神的な特徴に直面するわけなのですが、タイトルにもあるように円形のケーキを3等分するテストを彼らは正解できません。これはIQに問題があることを象徴しています。
非行少年というと問題のある家庭に育ち素行が悪くなったとこれまでは考えられてきました。親の躾が悪いからとか、親が甘やかせて育ててきたからとか。世間一般の人々は、人は平等であり、努力をすれば、よい行ないをすれば、よい生活を送ることができる。経済的にもそこそこ潤うことができると考えてきました。「日本では教育は平等であり貧乏の家からでも本人の頑張り次第で一流大学、一流企業に就職できる。」私は子供の頃、母親にこのように教えられてきました。ぼんやり違和感を感じましたが真っ向から反論することもできずにいました。今なら母親に反論できます。努力で逆転できる要素は思っているよりもずっと少ないよ、と。
マンガに登場する少年少女の知能は軽度知的障害もしくは境界知能(IQ70~84)です。そして発達障害も持ち合わせています。
以前、児童相談所から一時保護委託された子供でまことに手に負えない人がいました。15歳で発達障害(ASDとADHD)がありIQは平均すると93あります。この人は知的には平均的でした。が、多動で衝動性があり、ルールを逸脱することがしばしばで、『否認と嘘』がありました。他の利用者と喫煙や飲酒をしていることが状況からわかっても「やっていない」「あれは誰々がやったこと」「あれは昔のこと」と瞬時に嘘が出てきます。その頭の回転の速さはなかなかのもので、その瞬間には嘘であるとはこちらも見抜けません。両親からネグレクトや身体的虐待を受けて児童相談所に保護されたのですが、ご両親も彼の養育についてはさぞや手を焼いたことでしょう。
(え?児童相談所に収容されている子供たちは親から虐待を受けたかわいそうな子供じゃないの?)と思われるでしょう。悪いのはきちんと育てなかった養育者ではないか、と。
これはちょっと違うのです。
幼稚園の頃から他の園児を虐め、暴力をふるい、叱るとやってないと否認する、そんな園児もたまにはいるのです。小学校に上がっても教室内をじっとしていられずに騒ぎ、授業の進行を妨げ、情緒に問題のある子どもを集めたクラスで別途授業を受けさせねばならない子供はしばしばいます。最近、増えているそうです。
親にしてみれば「他の子供がなんなくできることがなぜうちの子はできないのだ!」と思うでしょう。
イライラして手が出ることもあるかと思います。その発達障害ぶりにほとほと疲れ果ててご飯を準備する力もなくなってくるかもしれません。そして振り返れば、その親御さんも子供の頃はこうだった。同じく発達障害であることが多いのです。こうして両親によるわが子へのネグレクト事例が一つ出来上がります。スマホで大金を課金した子供は親に厳しく怒られたことに腹を立てて家を出ます。行き先は交番です。深夜に「かわいそうな子供」は優しいおまわりさんに保護されて児相へと送られるのです。子供の権利擁護する児童相談所は親と子供も分離させて、子供を自立援助ホームに入れることにしました。
そしてほどなく『否認と嘘』時には職員への反抗的態度をホームで表す子供となりました。
自立援助ホームは日中には職員もいない、シェアハウスに近い環境の施設です。基本的な生活のルールを守れる人を対象にしています。とはいうものの、皆さん発達特性に問題があり、境界性パーソナリティの人が多くやってきます。少年院では彼らの情緒教育をするプログラムがあることを「ケーキの切れない非行少年たち」で知りました。が、塀の向こう側に行くほどではない子供たちを再教育する場所がほとんどありません。私たち、ひだまりのいえにはそんな大それたノウハウはありません。基本的な生活のルールを守ることができる人にのみを受け入れる、私達はこの基本を守るしかないと思いながら運営しています。
(※事例は実際のケースを改変しています)
この記事へのコメントはありません。